「自分たちが楽しんだ先にあふれだしたものを、まわりの皆さんにおすそ分けする。そのくらいが丁度いい。」
まちづくりや地域での活動を数多く体験してきた福井さんが考えるその志向には、まちでの快適な暮らし、地域活動への参加を考える人々にとって、貴重なヒントが含まれている。
暮らしの延長線上で
流山で生まれ育った福井さんは、現在も奥さんと3人のお子さんと流山で暮らしている。
福井さんはその自宅と併設する事務所1階を、2022年7月カフェとして開放し、まちのつながりを育むための試みを進めている。
「今までいくつかのまちづくりや地域での活動に関わってきたなかで、『自分が楽しむため参加する、その楽しみを共に分け合う』、そんな活動参加のほうが自然であり、持続的なものになると実感していました。
既存の自治会のようなものであるような『地域のために何かをしなければ』とか『付き合いでなんとなく参加する』とかでもなく、ふらっとまちの人々が気軽に立ち寄れる場所から、緩やかなまちのつながりが生まれてくる。そんな場所の存在は、まちにとって大きな財産となり、その方向性や将来性にも影響を与えるはず、とも考えてきました。
持続的にまちが活き続けるためには、どれだけ住人自身が当事者感覚でまちのことを考え続けることができるか、それを可能とする場があるか、そのことが、大きなファクターになるはずです。
流山で自宅兼事務所を建てる際には、自分の生活空間の一部を開放し、自分自身の楽しみを無理なく暮らしの延長線上で拡張することで、いままで考えてきたアイデアを実現し、緩やかで豊かなまちのつながりを育んでいきたいと思ってきました。
例えば、私は好きなコーヒーをたっぷり淹れて、たくさん飲みたいと思っています。だから、自分が飲む以上の、まわりの人にためにもコーヒーを淹れるのは、私にとって大した作業ではないです。その大したことがない作業を拡げていくと、『カフェのようなもの』になります。
料理によってはたくさんつくったほうがおいしいものもある、を拡げていけば『レストランのようなもの』に。大きな本棚があるからご近所さんにも本を置いてもらう、は『図書館のようなもの』に。映画は大勢で見たほうが楽しい、は『映画館のようなもの』になります。
福井さんは、建築家としてまちづくりのプレゼンテーションに参加した際、まちの活性化にはまちの活性化にはサードプレイス※として機能する場所が必要と、さまざまな機会で提案してきた。
(※第1の場=家庭でも、第2の場=職場でもない、第3の場となる居心地の良い場所)
しかし、『そのような場所を誰が運営するのか』という建築家の職域から離れた議題がピックアップされ、何度も苦い想いを味わってきた。
それでも福井さんはその確信が揺らぐことなく、自然発生したがごとくまちにたたずむサードプレイス的コミュニティが必要と考えてきた。
その想いをつらぬく原点は、福井さん自身の少年時代にある。
原点は『かまくら』
「子どものころ雪がたくさん降った時、どうしてもわたしは“かまくら”をつくりたくなって友達に声をかけ、近所の公園に行って“かまくら”をつくりはじめました。
流山に住む子どもたちにとって、雪が降るのは『特別』であり、『イベント』でした。そのイベントへのオマージュというか、記念碑的なものをつくりたい気持ちと、自分たちの秘密基地のようなものを作りたいという気持ちもあったように記憶しています。
つくり始めの頃は勢いよかったものの、かまくらをつくるのは思ったよりたいへんで、たくさんの雪を集めるだけでも一苦労でした。
そんな時、公園を通りかかった子どもたちに『何つくってんの?』と聞かれ、かまくらをつくっていることを伝えると、雪を集めるのを手伝ってくれました。その後は、またひとり、そしてまたひとりと手伝ってくれる方々が次々とあらわれ、瞬く間に雪が集まり、かまくらをつくることが出来ました。
かまくらが出来上がった時のなんとも言えない高揚感と、手伝ってくれたその日限りの仲間たちの満足そうな表情、そしてかまくらに次々と出入りする人々の楽しそうな姿はいまだ強く心に残る、わたしにとって大きな出来事となりました。」
福井さんはいま、自宅兼事務所の 1 階を、‟かまくら“をつくった『あのとき』と同じような想いが交流する場となるよう、CAFE として開放している。
「まずは自分が楽しみ、その楽しみを気にかけてくれる、通りすがりだったり、ちょっと滞在してくれる仲間がさらにその楽しみを拡げてくれる。そんな楽しさの緩やかなつながりを、あの時と同じように育める場となるよう、いまこの場所で試みていきたいと思っています。」
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